言葉より大切なもの
ミルク色の梅雨の空が続いています。
雨に濡れた木々はそれぞれに“緑”を発信し、あらためて緑色がこんなにも存在したのかとビックリ!
雨の上がったわずかなひとときをぬって、たくさんの小鳥たちが自慢の声を聞かせてくれます。
カッコウ、ウグイス、シジュウカラ、コゲラ……。
声を頼りに主を探してもなかなか出会えず、今も声と姿が一致することなく、その他大勢を“小鳥”と一括りにして梅雨空のオーケストラを楽しんでいます。
カッコウといえば、他の鳥の巣に卵を産み、ちゃっかりヒナになるまで育ててもらう「托卵」(たくらん)という習性で有名ですが、いつだったか、卵からかえったカッコウのヒナがまだ目の開かない状態で、後から生まれた巣の持ち主のヒナを巣から放り出す姿がテレビに映し出されていました。
自然界の営みと理解はするものの、いささかショックな映像でした。
人間界の子育ての様子に目を移しても、これに劣らない悲しい出来事が後を絶たず、ため息の出る機会が何と多いことでしょうか……。
今まさに子育てに向かっているお父さんお母さんたちと同年代の子どもをもつ親としても、気持ちは沈んできます。
そんな気持ちを奮い立たせ、おすすめする言葉に力が入るのが、今回ご紹介する絵本『ぎゅっ』です。原題は『Hug』。
文字のほとんどは「ぎゅっ」だけです。
散歩をしていたおさるのジョジョは、動物たちの「ぎゅっ」に出会います。
ゾウの親子もキリンもライオンの親子もぎゅっぎゅっぎゅっ。
ジョジョはだんだん寂しくなって、とうとう泣き出してしまいます。
そんな時、森の中からママがやってきて……。
たくさんの動物たちの「ぎゅっ!」の大合唱の中でジョジョはママの胸の中に飛び込みます。……読んでもらっている子どもたちの顔が一気にほころぶ瞬間です。
埼玉から時々来られるご家族連れがいらっしゃいます。
いつもの席でいつものように、お父さんは2歳くらいの女の子を膝に乗せ、ほっぺとほっぺをくっつけて「ぎゅっ」を読みます。
女の子の笑顔はもちろん! 誰よりも幸福そうなお父さんの顔。それを見つめるお母さん……。
子どもにとって、大好きな大人からの「ぎゅっ」ほど、安心感を与えてくれるものはないでしょう。
大人だって、心の寄り添いや楽しい世界の共有はうれしいものですもの。
むしろこの不穏な時代に、羽をむしられたように生きている大人にこそ、「ぎゅっ」は必要なのかもしれません。
素直に、心の底からホッとできる一冊です。
ジェズ・オールバラ●作・絵
徳間書店 定価1470円
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